2007年10月アーカイブ
中学一年生のぼくは、「マンダム」
一色に染め上げられていた。
1971年のことだ。
チャールズ・ブロンソンの
テレビコマーシャルが、
それはもう強烈だった。
ブラウン管から放射される
オーラの強さは、
尋常のものではなかった。
「ウーン、マンダム」
いま思い出しても、
足の裏がむずむずする。
オオノヒロシ君は、ブロンソンの
物真似が上手だった。
それだけで、ぼくはオオノ君が
大好きだった。
「アゴになんかついてるで」
「えっ?」
相手がアゴに手をやると、オオノ君がすかさず決める。
「ウーン、マンダム」
ぼくはうれしくて飛び跳ねてしまうのだった。
とにかくヒゲがほしかった。
毎日鏡を見ても、ヒゲが生えてくる気配はなかった。
とうとう待ちきれなくなった。
ぼくは画用紙とマジックでヒゲを作り、
鼻の下にセロテープで止めた。
「ウーン、マンダム」
それを見たウエダキヨシ君が、
自分にもヒゲを作ってほしいと言い出した。
ぼくはウエダ君にヒゲを作ってあげた。
「ウーン、マンダム」
ぼくたちは全速力で自転車を漕いだ。
頭の中では、砂漠を馬で駆け抜けていた。
あの頃、ぼくたちの世界に、異性は存在しなかった。
女子に関心を持つことは、何か汚らわしいことに思われた。
ぼくたちは男の砦の住人だった。
毎日が満ち足りていた。
その後、砦はあっという間に崩壊するのだが、
異変を予知する者はなかった。
楽園を追われる前。
ぼくは、チャールズ・ブロンソンのヒゲに夢中だった。
photo=古い看板(c.nagase)
番組の途中ですが、お知らせです。
今日から庄野真代さんの新曲が試聴できるようになりました。
トップページの「耳」のボタンをクリックしてみて下さい。
CD『奇跡の森』は、11月28日クラウンミュージックから発売されます。
3曲入り1,200円(税別)です。
ぜひ買って下さい!と言いたい気分でいっぱいです。
それでは、引きつづき番組をお楽しみ下さい!
『ほんまかい通信』の写真を担当している
ナガセ氏が新車を購入した。
さっそく助手席に乗せてもらった。
わあ、新車の匂いがする。
音楽を聴きながらドライブです。
機内放送のように、
曲の変わり目にDJのおしゃべりが入る。
「次の曲はイーグルス、
『ホテル・カリフォルニア』です!」
「これなんですか?」
「ああ、それ」
運転しながらナガセ氏がニヤリと笑う。
「それ、カーナビです」
ええっ、カーナビ?
「普通にしゃべってますよ!」
「そうなんです。CDをハードディスクに取り込んで、
DJが選曲しながらかけてくれるんです」
「車がしゃべるんですか?」
「いろんなこと言いますよ」
「おはようございますとか、おやすみなさいとか?」
「あいさつどころか、季節の話題を話したり、
走っている場所の名産品を紹介したり」
これはえらいことになってきた。
「じゃあ、昨夜は遅くまでご苦労さま、
なんてのもあり?」
「そのうちそうなるでしょうね」と、ナガセ氏はこともなげに言う。
「そのうちカーナビと会話できる日が来ますよ」
頭がくらくらしてきた。
カーナビの声の主、じつに色っぽいのだ。
「自分の好きな声を選べるようになるんじゃないかな」
ホントですか?
湿り気を帯びて、鼻にかかる声。
自分の好きな声が、優しく語りかけてくれるのだ。
「おはようございます。今日はクリスマスイブ。
素敵な夜になるといいね」
思わず目的地を通り越してしまう。
人のことは言えないが、家に居場所のない男性はゴマンといる。
かれらは(ぼくらは)港の見える丘に車を停めて、
カーナビとおしゃべりするのだろうか?
何台も、何台も。
ぞっとしない、近未来の光景だ。
photo=夜の高速道路(c.nagase)