全日空を探せ

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青空.JPG

「ざじずぜぞ」と「だぢづでど」は、もともと同じ音だったのではないか?
と思うくらい両者の区別がつきにくい。

そんな馬鹿な、と思われるかもしれないが、和歌山県に住むと聴覚が変化するのだ。

「絶体絶命」は「でったいでつめい」になるし、「増収増益」は「どうしゅうどうえき」になる。いつのまにか「ざ行」と「だ行」の区別が曖昧になる。 

25歳のぼくは無職だった。
フリーターなんて言葉は
まだなかった。
ぼくは単なるプータローだった。
その日暮しに甘んじていたが、
とうとう食うに困るようになった。

当時の『日刊アルバイトニュース』は、
年齢制限がはっきりしていた。
25歳を過ぎると、どこも雇ってくれなくなる。
これはまずい。あわてて就職活動をはじめた。
折り込み広告みたいに履歴書を書いた。

万策尽きた頃、和歌山県出身のご縁で、
ある代議士の秘書見習いをすることになった。
食いつめたバンドマンが、
ネクタイを締めて永田町に通うことになった。
平穏無事に済むわけがない。
笑えない話も山とある。多くの人々にご迷惑をかけた。
失敗談は別の機会に譲るとして、
その日ぼくはせっせと宛名書きにいそしんでいた。
代議士の出版記念パーティーの案内状を、
企業に発送する仕事。
自分とはまったく縁のない、
優良企業の名前がズラリとならぶ。
郷土の秀才に囲まれて、ぼくはひたすら小さくなっていた。

 

「全日空の住所、わかるか?」とスタッフの一人が言った。
その場にいた女の子が顔を見合わせる
「電話帳に載ってないか?」と奥から所長が声をかけた。
ああそうか、かれはうなずいて電話帳を繰りはじめた。
頁をめくったり、戻ったりしている。
「おかしいな。載ってない」
「そんなはずないやろ」
と所長が席を立つ。
「全日空のない電話帳なんかあるか」
電話帳を取り上げ、パラパラとめくりはじめた。
「あれ?」と所長が首をかしげる。
指先が同じ場所を行ったり来たりしている。
「おかしいな。・・・載ってない」

コントを見ているようだった
明らかに2人は、「ぜんにっくう」ではなく
「でんにっくう」をさがしていた。
しかし、高学歴の先輩に見習いがツッコミを入れるわけにはいかない。
うつむいたまま、ぼくは仕事に打ち込むふりをしていた。

1日も早く、職場に溶け込みたかった。
プータローに戻るのだけはごめんだった。
ネクタイを生まれてはじめて締めた頃。
ぼくは必死で自立しようとしていた。

photo=見上げた空(c.nagase)

 

コメント(6)

ぴのこ :

社長さん、いつも楽しいエッセーですね☆
だ行とざ行、和歌山県人ならではの特徴ですよね。

「でんだい(善哉)こぼしたからどうきん(雑巾)持ってきて」。

私の父はどっちかわからないというよりも、ざ行が言えないようです...


青アザを「にえる」というのも和歌山県人だけらしいですね(O_O)
景色や環境とともに方言もいつまでも残していきたいですねー(^_^)

エビノキユウイチ :

「にえる」は最高!
口に含んだコーヒーを吹き出しそうになりました。
和歌山弁は生々しい言葉がいっぱいあるので好きです。
駅前で女子高生の会話が聞こえてきました。
「あいらまくれこんだってんとー」
竜巻のような言葉です。

あっちょんぷりけ、なコメントをまってます!

ぴのこ :

「あいらまくれこんだーってんとー」(笑)

さらりと読める私はまさに和歌山県人!

和歌山県内でも紀北と紀南では結構違うし、紀南でも田辺とすさみは違うし、串本なんかもまた違ってて面白いですね。

すさみ「てきゃかつおつんにいきやっつらら」->「あの人鰹釣りに行ってたでしょ」

串本「またきてくらんしよ」->「また来て下さいね」

では「じてここぎやってまくれっとんだかいてあしらにえこんだーっつらら」は?

エビノキユウイチ :

「だーってんとー」と伸ばすわけか。
雰囲気が出ました。
ぴのこさんは天才ですね。
「てきゃかつおつんにいきやっつらら」
潮風の匂いがするもんね。

県外の人のために、クイズに答えます。
「じてこ」は「自転車」
「こぎやって」は「こいでいたら」
「まくれっとんだかいて」は「転がり込んだらしく」かなあ。
「あしら」は「足なんか」
「にえこんだ」は「痣ができた」
「つらら」は「じゃないか」
の二乗みたいな意味です。
「つらら」いいなあ。
テンションが上がってきました。

むかし空き地に車を止めようとしたら目の前に貼り紙が。
「駐車禁止/止めたらもじくど」
あの時は本気で怖かった。

ナミナミ :

和歌山出身ですが、和歌山市内なので紀南の方言はあんまりわかりません。
雰囲気はわかります。結婚して兵庫県に住むことになりました。当時の職場の
若い子が私に教えてくれたことがあります。「数字の7は「なな」ではなく「しち」と言わなきゃ田舎もんと思われるで」(しっかり田舎もんだけど)

私は、「なな」の方がハイカラ(古い表現だけど)な感じがしていたのですが、ななんと家人も家人の両親も「なな」ではなく「しち」でした。

ちなみに私もだ行とざ行が苦手です。今でも間違っていないか時々びくびくしています。地方では方言だけでなく表現もいろいろですよね。
東京でお腹一杯食事して「ああ、お腹、大きいわ」なんて言うと妊娠していると思われるよって聞きました。

エビノキユウイチ :

「お腹が大きい」もびっくりしますね。
県外の人には絶対わからない方言を集めてみたい気もします。
方言ではないけれど、「インガスンガスン」とか言ってみたくなるときがあります。

むかしぼくの母親が東京でワンマンバスに乗ったとき、
降車口から乗って、降車口から降りてくれたのにはあきれました。
「さすがは東京や。どんだけ乗ってもバスがただ!」
そんなわけないやないか!

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このブログ記事について

このページは、蛯乃木が2007年10月27日 12:17に書いたブログ記事です。

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