2008年1月アーカイブ

ミッション・インポッシブル

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白昼の満月トルコにいる及川さんからメールが届いた。庄野さんと連絡を取りたいが、エロルのPCには庄野さんのアドレスがなく、ついては自分のメールを庄野さんに転送せよとのこと。

 

『ミッション・インポッシブル』のイントロが鳴り響いた。デジタル音痴のこのぼくに何たることを。
あきれつつメールを読んでみると、この秋のトルコでのコンサートに関するもの。庄野さんのスケジュールの確認だった。
これは無視できない。
転送ができるとか、できないとかの問題ではない。
やるしかない。
さっそく転送を試みた。

 

まずメールの画面から、タスクバーの「転送」の欄をクリック。
画面が切り替わり、メール作成のフォーマットが出た。
アドレスの空欄に庄野さんのアドレスを書き込み、「送信」ボタンをクリック。
何と!及川さんのメールは庄野さんの元へ!
こんなに簡単だとは知らなかった。
七転八倒するかと思っていたのに。
そんなことより。
七転八倒しているのは、及川さんの方だった。

 

念願のトルコ・ツアー。
庄野真代さんのコンサートを実現するために、
及川さんとエロルはトルコ国内を奔走している。
二人の情熱が実を結び、ようやくツアーの全貌が見えてきた。
開催期間は、10月10日から24日まで。何と2週間のロングラン!
開催地は、イスタンブールを皮切りに、
アンカラ、マラテヤ、エルズールス、エスキシェヒルの5都市が予定されているという。
『ミッション・インポッシブル』は、及川さんの方だった。
日本でぬくぬくと暮らしている自分が馬鹿に思えてきた。
二人は持てる力のすべてを駆使して、不可能の扉をこじ開けようとしているのだ。
及川さんが日本に戻ったら、詳しい話を聞かせてもらおう。
このサイトでも、充分な告知があるにちがいない。
それにしても。
及川さんの旅はすさまじいものがある。
メールの最後は、こう結ばれていた。

 

「明日の夜からエルズールムです。
天気予報を見たら、マイナス30度でした。
及川、未体験ゾーンに突入」
 

photo=白昼の満月(c.nagase)

 

インサイダー

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那智山の大門坂

那智勝浦に行ったら、『桂城(かつらぎ)』でご飯を食べること。テレビ和歌山の黒田さんから、そう教えられていた。
さっそく行ってきました。

浮桟橋のつけ根にある飲食街の一角。ガラス戸を開けると、右側にカウンター。左側に小上がり。テーブルが三卓。居酒屋風の食堂である。壁に貼り出されたお品書きの中から、「(マグロの)なか落ち丼」を選んだ。

白衣の店主は、格闘家のような風貌をしている。ビビリながら、話しかけてみた。黒田さんの紹介で、田辺から来たことを伝えると、店主は人なつっこい笑顔を浮かべた。よかった。怖い人じゃなくて。忙しく手を動かしながら、料理にまつわる話を聞かせてくれた。この店は、マグロの頭、内臓、尾びれを食べさせてくれる。メニューが誕生するまでの苦労話が面白かった。

会話の合間に、出刃包丁がまな板を叩く音がする。ハンパな音じゃない。
何をやっているんだろう?
料理が出てきて、その意味がわかった。目の前にドスンと、マグロの中骨。差し渡し50センチはあろうか。白飯と、お新香と、お味噌汁が添えられた。ぼくは店主の顔を見上げた。

どーゆーことでしょうか?
店主はこともなげに答えた。
うちの中おち丼は、お客さんに作ってもらうんです。
はい?
スプーンを持って。
はい。
肋骨に沿って、マグロの身をかき出すんです。
言われた通りに、やってみた。
骨と骨のすきまにスプーンの先端を押し当て、
力を入れてこそげると、
驚くなかれ、面白いように身がついてくる。
マグロの中落ちがおいしい理由がよくわかった。
腹身を取った残りなのだ。
一番上等な部位なのだ。
肋骨の長さ、深さのちがいが、そのまま肉の分量になる。
中落ちの肉片が、やけにふぞろいな理由も、これでよくわかった。
面白いですか?
面白いです。
旅に出たときは、珍しい経験が大切なんです、と店主が言った。

たとえば勝浦に旅をするとして、
ガイドブックを見てこの店にたどり着いただろうか?
インターネットで検索できただろうか?
いずれも怪しいものだ。
同じ県内、土地勘のあるぼくでさえ、
通りいっぺんの勝浦しか見ていなかった。
知人の紹介があってこそ、
一歩町の中に踏み込むことができる。
ほんの一瞬インサイダーになることができる。

その町の暮らしを体験させてもらうこと。
国内旅行の可能性は、この辺にひそんでいるような気がする。
地元の友人に案内してもらうような旅。
このようなプランを開発できれば、
小さな無名の観光地でも、まだまだお客さんが呼べるのではないか。
(勝浦が小さくて無名だと言っているわけではないよ。念のため)
地域の観光に従事する者が、
友だちや恋人に手紙を書くようにその町の情報を発信するなら、
その情報そのものが観光資源になるような気がする。

訪れた土地で、地元の人とおしゃべりできるプランがあれば、
わざわざ遠い外国に行きたいとは思わない。
一度は行ってみたい街が、まだまだ国内にたくさんある。
 

photo=那智山・大門坂の夫婦杉(c.nagase)

 

植木鉢(田辺市大浜通り)

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往来で、日向ぼっこする植木鉢。

トリオ漫才みたいでほほえましい。

右端の人が、なんとなくMr.オクレに見えてくる。

 

3つの植木鉢

photo=c.nagase

 

臨海学校

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扇ケ浜
駄洒落の話になると思い出す。
オサムちゃんから聞いた「臨海学校」の話。
 

夏の臨海学校で事件が起きた。
女子の水着が盗まれたのだ。
どんな水着か?」と先生が訊いた。
「ビキニです」と女子が答えた。
わかった、と先生はうなずいた。


先生は生徒を一堂に集めた。
そして、口を開いた。
楽しいはずの臨海学校で盗難事件が起きた。
非常に残念なことである。
しかし。
盗んだものも、今は後悔しているのではないか。
秘密を抱えて生きていくのは苦しいものだ。
だから。
水着を返してくれないか。
いま返してくれれば、罪に問わない。
女子も、許すと言ってくれている。
先生は声を励ました。
「この中に犯人がいる!」
一人ひとりの目を見た。
そして、心をこめて訴えた。
「超ビキニ(正直に)、名乗り出てほしい!」

 

感涙ものです。

 

 photo=扇ケ浜海岸(c.nagase)

空耳アワー2

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オオガハスの実
「汚職事件」を「お食事券」と聞きまちがえたのは、そもそも、ホサカの奥さんのみっちゃんだった。リクルート事件のときだった。あまりに見事な聞きまちがいだったので、その後あちこちでしゃべりまくった。今では聞きまちがいの古典になってしまった。
 

「コーディネイトいけねぇ!」
とはじめて口走ったのは、何をかくそうこのぼくだった。今から二十数年前、原宿の居酒屋でこう叫んだとき、周囲のテーブルからどっと笑いが起きたものだ。

 

「ベルリンの壁崩壊」の一報が届いたとき、
ぼくは、「ベルリンの食べ放題」だと思った。
ビールも飲み放題かと。
 

この頃のことを思えば、ぼくの聞きまちがい力もずいぶん低下してしまった。ぼくだけではない。保坂和志も衰えた。先日、うれしそうにホサカから電話があった。聞けば、駄洒落を考えたという。
「聞いてくれる?」
「どうぞ!」
受話器の向こうで、ホサカが叫んだ。
「世阿弥のセーター!」
うーん、がっかりだ。
 

最近の聞きまちがいは、こぢんまりしたものばかりだ。
「話し合い」は「放し飼い」に聞こえる。
「練習」は「年収」に聞こえる。
「手拍子」は「背表紙」に聞こえる。
「空メール」は「キャラメール」に聞こえる。
べとべとの水飴のようなものが思い浮かぶ。
「スーパー銭湯」は「数パーセント」に聞こえる。
この聞きまちがいは、悪くない。
 

晩年の夏目漱石は、書に傾倒していたと、
新聞記事を見つけたときのこと。
ぼくは、この話を及川さんに伝えたいと思った

「晩年の漱石は、良寛が欲しくて欲しくて、たまらんかったらしいで」
及川さんは、けげんな顔でぼくを見た。
「練り羊羹?」
アホか!
羊羹ぐらい近所の和菓子屋で買えるやないか!

 

ちょっと待てよ。
この聞きまちがいは、古典になるかも。

 

photo=オオガハスの実(c.nagase)

 

白いポスト(田辺市大浜通り)

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白いポスト
白く塗られて、背中を向けて。

話し相手は、どこにもいない。
 
怒っているのか。

泣いているのか。


次の出番を待つ道化師(アルルカン)

鏡の中に、年老いた顔。





















photo=c.nagase

幻の『胴長短信』

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胴長のオブジェ

サルトルの『嘔吐』を思い出す。主人公ロカンタンは、肩がこっていたのではないだろうか。背中も首もがっちがち。あちこちで吐き気を催すのは、おそらくそのせいだ。


ところがフランス語には、「肩こり」という単語がない(と丸山圭三郎が書いている)。したがって、肩こりという概念もない。ロカンタンは、自分の身に何が起きているか、自分で正しく理解することができないわけだ。これこそ、まさしく「不条理」ではないか!
 

このようなことを、サイト管理者のナガセ氏にまくしたてた。「ははん」とナガセ氏はうなずいた。
「それはつまり、ご自身の肩がこっていると、こういうことでしょうか?」
まぁ、そうです。
「週三回の更新が負担になっている、と」
いえ、そういうわけではないのですが・・・
うーむ、とナガセ氏の眉間に皺が刻まれた。
近寄りがたい空気になった。反射的に謝ろうとしたが、ナガセ氏は意外な反応を見せた。
「わかりました。・・・何とかしましょう」
ありゃま。怒られるんじゃなかったの?
ナガセ氏は、森本レオの声でこう言った。
「週に一本、短いものを書きましょう!」
 

ナガセ氏のアドバイスは、以下の通りだ。
ブログは、長ければいい、というものではない。(ドキッ)
大切なものは、継続だ。(そうだ!)
一本の原稿に時間をかけるよりも、
同じ時間で短いものをたくさん書いた方が、
きっと読者も喜んでくれる。
(お前のブログは長くてウザイと、しょっちゅう言われる)
同じやるなら、楽しまなくっちゃ。(たしかに!)
こうしてぼくたちは同意した。
週に一度『ほんまかい通信』の短信バージョンを作ろう!
内容は、ナガセ氏の写真にぼくがキャプションをつける、というもの。
これなら長続きしそうだ。
 

「タイトルは、エビノキさんが決めて下さい」
「何でもいいですか?」
「何でもいいです」
ホントかなあ。
おそるおそる切り出した。「『胴長短信』なんてどうでしょう?」
ナガセ氏は、遠くを見ている。
しまった!今度こそ本当に怒らせてしまった。
 

というわけで、タイトルは没になりましたが、
次回『ほんまかい通信』の姉妹篇をお届けします。
テーマは、画像で伝える熊野の魅力。
どうぞ、お楽しみに!

photo=シルエットのオブジェ(c.nagase

 

リインカネーション

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山の朝

小説家の保坂和志氏、哲学者の木田元氏。
このお二人と世間話をするくらい、楽しい時間はない。
高尚な話ではない。
血液型の話とか、星占いの話とか。井戸端に転がっているような話題ばかりだ。


きっかけは何でもいい。
フリージャズのように、テーマが転がりさえすれば。
スピンする言葉に、さらにスピンをかけて打ち返す。
相手のインスピレーションに反応しながら、じりじりと足場を移動するうちに、気がついたら隣のコートに立っていたりする。
音楽のようでもあり、
テニスのようでもあり、
ジャグリングのようでもある時間。


いつだったか、誕生日の話題になった時のこと。
例によってホサカが怪気炎を上げた。
オレはニーチェの生まれ変わりなんだよ、と言い出した。
ホサカの誕生日は、10月15日。
ニーチェも同じく10月15日。
根拠はこれだけ。
それでもホサカはひるまない。
ニーチェがそこにいる、としか思えない自信に満ちた態度で、
世界を肯定する哲学について語りはじめた。


こちらも負けてはいられない。
くの誕生日は7月3日。
フランツ・カフカも7月3日。
じつは、ぼくはカフカの生まれ変わりだ。
自分でも思いがけないことを口走る。
だってそうではないか。
堅気の勤め人をしていても、
胸の中に燃えさかる詩的感受性。
これこそカフカ時代の記憶なんだよ。


ニーチェ対カフカ。
我田引水のそしりを受けても、
ぼくはカフカに軍配を上げたい。
文学賞を見ればすぐわかる。
カフカ賞はあるが、ニーチェ賞はない。
将来できたとしても、自費出版に与えられそうな賞だ。見栄えが悪い。
このようなやりとりを延々と続けるわけだ。
木田先生がゲラゲラ笑いながら見ている。


ところで、
と、ホサカが木田先生を見た。
木田先生は誰の生まれ変わりなんですか?
オレ?
木田先生が目を剥いた。(マイケル・ケインにそっくりになる)
オレは、・・・誰だろう?
誰ですか?
木田先生は、虚空をにらんだ。
オレの誕生日は、9月7日。
はい。
長渕剛も、9月7日。
はい?
アルキメデスが憑依したのかも知れない。
「ユリーカ!」と叫ぶ代わりに、木田先生はこう言った。

「オレは、長渕剛の生まれ変わりだ!」


先生。
いくら何でも、面白すぎます。

 

photo=山の朝(田辺市中辺路町近露)c.nagase

 

*蛯乃木さんのリクエストで、写真を1枚追加します。わたしの古里、湘南海岸の新春の風景です。

新春の湘南海岸 

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