インサイダー

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那智山の大門坂

那智勝浦に行ったら、『桂城(かつらぎ)』でご飯を食べること。テレビ和歌山の黒田さんから、そう教えられていた。
さっそく行ってきました。

浮桟橋のつけ根にある飲食街の一角。ガラス戸を開けると、右側にカウンター。左側に小上がり。テーブルが三卓。居酒屋風の食堂である。壁に貼り出されたお品書きの中から、「(マグロの)なか落ち丼」を選んだ。

白衣の店主は、格闘家のような風貌をしている。ビビリながら、話しかけてみた。黒田さんの紹介で、田辺から来たことを伝えると、店主は人なつっこい笑顔を浮かべた。よかった。怖い人じゃなくて。忙しく手を動かしながら、料理にまつわる話を聞かせてくれた。この店は、マグロの頭、内臓、尾びれを食べさせてくれる。メニューが誕生するまでの苦労話が面白かった。

会話の合間に、出刃包丁がまな板を叩く音がする。ハンパな音じゃない。
何をやっているんだろう?
料理が出てきて、その意味がわかった。目の前にドスンと、マグロの中骨。差し渡し50センチはあろうか。白飯と、お新香と、お味噌汁が添えられた。ぼくは店主の顔を見上げた。

どーゆーことでしょうか?
店主はこともなげに答えた。
うちの中おち丼は、お客さんに作ってもらうんです。
はい?
スプーンを持って。
はい。
肋骨に沿って、マグロの身をかき出すんです。
言われた通りに、やってみた。
骨と骨のすきまにスプーンの先端を押し当て、
力を入れてこそげると、
驚くなかれ、面白いように身がついてくる。
マグロの中落ちがおいしい理由がよくわかった。
腹身を取った残りなのだ。
一番上等な部位なのだ。
肋骨の長さ、深さのちがいが、そのまま肉の分量になる。
中落ちの肉片が、やけにふぞろいな理由も、これでよくわかった。
面白いですか?
面白いです。
旅に出たときは、珍しい経験が大切なんです、と店主が言った。

たとえば勝浦に旅をするとして、
ガイドブックを見てこの店にたどり着いただろうか?
インターネットで検索できただろうか?
いずれも怪しいものだ。
同じ県内、土地勘のあるぼくでさえ、
通りいっぺんの勝浦しか見ていなかった。
知人の紹介があってこそ、
一歩町の中に踏み込むことができる。
ほんの一瞬インサイダーになることができる。

その町の暮らしを体験させてもらうこと。
国内旅行の可能性は、この辺にひそんでいるような気がする。
地元の友人に案内してもらうような旅。
このようなプランを開発できれば、
小さな無名の観光地でも、まだまだお客さんが呼べるのではないか。
(勝浦が小さくて無名だと言っているわけではないよ。念のため)
地域の観光に従事する者が、
友だちや恋人に手紙を書くようにその町の情報を発信するなら、
その情報そのものが観光資源になるような気がする。

訪れた土地で、地元の人とおしゃべりできるプランがあれば、
わざわざ遠い外国に行きたいとは思わない。
一度は行ってみたい街が、まだまだ国内にたくさんある。
 

photo=那智山・大門坂の夫婦杉(c.nagase)

 

コメント(2)

しんや :

文章を 読んだだけで わたしも 食べてみたくなりました。 是非 いつか たずねてみたいお店ですね。

エビノキユウイチ :

しんやさま
那智勝浦町あたりの海には、
大勢のサーファーが泳いでいました。
びっくりしました。
田辺よりも、
二、三度気温が高いみたい。
持っていたコートが邪魔になりました。


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このページは、蛯乃木が2008年1月28日 09:26に書いたブログ記事です。

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