無口なカーナビ

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2年ぶりに青年会議所OB6人組で旅をした。
目的地は福岡。
高校受験、大学受験の子供を持つ仲間のために、
太宰府天満宮にお参りしようというわけだ。
その夜は、長浜の鮨屋で新年会。
例によってタマイ氏が、すべての行程をアレンジしてくれた。

 

福岡空港に降り、レンタカーを借りた。
7人乗りのワンボックス。
小学生に戻ったおっさん6人が乗り込む。
ありがたいことにカーナビが装備されている。
小はアイロンがけから大は建築現場まで、
人生行路に不可能を知らないタマイ氏だが、
さすがに福岡でハンドルを握るのは初めてらしい。
カーナビに目的地を設定した。

 

えーと、だだいふてんまんぐう、と。
カラオケの選曲みたいに、
50音図のひらがなを指先で押してゆく。
機械はうんともすんとも言わない。
あれ?おかしいな。
アホか、と助手席のナゴヤ氏が割り込む。
ざだいふてんまうぐう・・・
お約束の入力ミスがはじまった。
二人はかわりばんこにでたらめな日本語を打ち込んだ。
プチ、と音を立ててカーナビが切れた気がした。
悪い予感がした。

 

ダーッ、というか、
ガーッ、というか、
とにかく擬音まじりの勢いで、
ぼくたちは高速道路を走りはじめた。
「大宰府」の表示に引かれてETCを抜けると、
何たることか、道は二又に分かれていた。
片や「北九州・山口」
片や「熊本・大分」
福岡市内の出口はなかった。
しまった、と思ったがもう遅かった。
「熊本まで91km」の表示に従い、
ひたすらまっすぐ走り続けるしかなかった。

 

そもそも、高速に乗ったのがまちがいだったのかも知れない。
しかし、カーナビは何も言わなかった。
料金所をくぐるときも黙っていた。
水前寺公園を目指して走っている今でさえ、
こやつは押し黙ったままである。
ぼくたちを太宰府天満宮に連れて行く意思はあるのだろうか。
次のインターチェンジで車を降ろし、
タマイ氏は自力で道を探しはじめた。
無言のモニターに写る地図を頼りに。

 

大宰府に近づくにつれ、
次第に道が入り組んできた。
いいかげん心細くなった頃、
カーナビが初めて口を開いた。
「次の交差点、左方向です」
喋れるのかよ!
交差点が視界に入ったとき、
ぼくたちは思わずぎゃっと叫んだ。
そこは*字型の立体交差だった。
左方向に道が2本ある。
どっちだ?
えいままよ、とタマイ氏がハンドルを切った。
カーナビは無言。
やれやれこれで良かったのか。
しばらく走っていると、カーナビがポツリとつぶやいた。
「リルートします」
何だと?
「2キロメートル先、右方向です」
自分の耳を疑った。
いくら何でも、遠すぎないか?
カーナビは返事をしない。

 

無口なカーナビ。
必要以外のことは口にしない。
必要なことでも、ややもすると口ごもる。
プログラムに問題があるか、
ぼくたちがプログラムを誤作動させたか、
そのいずれかにちがいない。
ひょっとしたら、
プログラムをした人が九州男児だったのかも知れない。
ぼくたちは想像めぐらせた。
今時珍しい寡黙な男。
壁には高倉健のポスター。
心の中で口ずさむのは、『兄弟仁義』

 

「俺の目をみろ 何んにもいうな
男同士の 腹のうち
ひとりぐらいは こういう馬鹿が
いなきゃ世間の 目はさめぬ」

 

ここまで徹底してくれれば、いっそあきらめがつくというものだ。
同じプログラムでも、
関西人の手にかかれば、
まったく別のものになるだろう。
「ちゃうちゃう!ちゃうちゃう!」
交差点に入る前から、
桂文珍の声で大騒ぎするにちがいない。
「そっち行ったらアカン!右や右や、右やがな!」
頭の中が真っ白になりそうだ。
かえって危ないような気がする。

 

目かくし競争みたいに右往左往しながら、
やっとたどり着いた太宰府天満宮は、
参詣客で大いに賑わっていた。
受験シーズンは目の前。
社殿の一つひとつにお賽銭を投げ込みながら、
もっともらしく手を合わせてみる。
あとは酒を飲むだけだ。
有名な『飛梅』は、二分咲きだった。
田辺よりも、少し春が早いと思った。
 

photo=太宰府天満宮の飛梅(h.tamai)

二分咲の飛梅

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このページは、蛯乃木が2008年2月11日 09:00に書いたブログ記事です。

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