『また逢う日まで』

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稲朝鏡を見たときに、
チャリ(もみあげ)の長さが気になった。
左右の長さが微妙にちがう。
自分でそろえようとした。
はさみでチョキンとやったら切りすぎた。
反対側をチョキン。
右、左、右、左。
「ああ!」
と絶望の声が出た。
気がついたらチャリがなくなっていた。

 

学校に行けない!
ぼくはパニックにおちいった。
時は1971年、
ぼくは小学6年生だった。
テクノカットが世に出る8年前のことである。
チャリのない頭で表に出られるわけがない。
「わあ!」
とぼくは叫んだ。
「学校やめるー!」

 

奥からおばのA子が出てきた。
「どうした?」
ぼくはわが身の悲劇を訴えた。
「もう学校に行かれへん!」
「ふうん。」
とおばは鼻を鳴らした。
「チャリぐらい、描いたらええ。」
おばはマジックでぼくのこめかみにチャリを描きはじめた。
最初小さかったチャリがだんだん大きくなっていく。
膝枕をされたまま、
ぼくは不安に耐えていた。

くくくっ、と笑いをこらえながら、
おばの指先が思わぬ方向に動く。

チャリはこめかみから頬へ広がり、
とうとう尾崎紀世彦のもみあげのようになってしまった。

 

「これ、おかしないか?」
「おかしない。よう似合う。」
ぼくは家を追い出され、
学校への道をとぼとぼ歩き出した。
そこから先のことはよく覚えていない。
机のまわりに女子が集まり、
大爆笑が起こったことをぼんやり記憶している。

 

この日を境に、
ぼくは「オモロー!」な人生を歩みはじめることになる。
詩人の魂が粉々に砕け散った日、

巷には『また逢う日まで』がひっきりなしに流れていた。

photo=稲(c.nagase)


 

コメント(4)

しんや :

たまらん いい おばさんですね。 少年には、つらかったと おもいますが。

エビノキユウイチ :

たまらんいいおばさんです。
きっと面白半分で甥の頬にもみあげを描いたのだと思います。
ぼくはこの日人生の曲がり角を曲がってしまった気がします。
自分の人生が「笑いの惑星」に引き寄せられるなど、
思いもよらないことだったのですが。
おっしゃるとおり、
少年にはまことにつらい一日になりました。

jin :

おはようございます。
読んでて、ちょっと元気出ました。
写真も清々しくて良いです。

エビノキユウイチ :

「笑い×元気」はこのブログの永遠のテーマです。
読んだ人が少し笑って元気になってくれたら、
これほどうれしいことはありません。
一番うれしいコメントをいただきました。
笑いの種を探してあっちをウロウロ、こっちをキョロキョロ。
先日都内某所で職務質問を二度受けました。
「何をやっているか?」
と訊かれたので、
「観光です!」
と答えたものの、
さすがに二度目はなかなか許してもらえませんでした。


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このページは、蛯乃木が2008年7月21日 09:00に書いたブログ記事です。

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