潮風のメロディ
今年の夏は短かったような気がする。
このブログを書いているのは8月の終わりなのだが、
エアコンがいらないくらい涼しい。
湿度が抜けて軽くなった風がカーテンをふくらませる。
鈴虫が鳴いたり、鳴き止んだり。
子供の頃、
夏の終わりはちょうどこんな感じだった。
はしゃぎすぎたあとのけだるさ。
ゆるんだゼンマイを巻き上げるようにして、
ぼくたちは新学期を迎えたものだ。
中学・高校を通じて、
心に残る歌謡曲のほとんどは筒美京平の作品だった。
南沙織の『潮風のメロディ』
岡崎友紀の『私は忘れない』
太田裕美の『木綿のハンカチーフ』
どれも二度と戻らない時間を歌って哀切なのだが、
メロディはどこまでも軽快で弾んでいる。
言葉と音の落差が「モアレ」のように心に感傷のさざなみを立てる。
決定的な影響を受けたと思う。
日没の早さにとまどいながら、
急に南沙織が聞きたくなった。
『TSUTAYA』でさがしたのだが見つからない。
あきらめかけていたら、
ひょんなこともあるもので、
高速道路のSAにCDコーナーがあり、
南沙織のベストアルバムが置いてあった。
封を切るのももどかしく、
さっそく再生してみた。
「潮風に吹かれると
想いだす あなたのこと
口笛を真似しても
夏の日はかえらないの
もうひとこと言われたら
恋人でいたのに
ひとりで歩く道
はじめてくちづけした日を
あなたも忘れずにいるかしら」
才能が花開くとき、
シンガーの声は本当に豊かになる。
ストリングスやハープの音と声が共鳴し、
そこには存在しないはずの音(倍音)が陽炎のように立ち上る。
「夕暮れに手をあげて
呼んでみる あなたのこと
愛された長い髪
潮風が編んでゆくの
もうひとこと言われたら
恋人でいたのに
二人で数えた舟
目と目でかわしたささやき
あなたも忘れずにいるかしら」(作詞:有馬三恵子)
主人公が失ったものは決して小さくはないはずだが、
歌そのものは明るく、
幸福感に満ちている。
彼女は傷ついたかも知れないが、
それゆえ優しく、
成熟した女性になっていく予感がする。
個々のメロディやコード進行ではなく、
こういう世界観に影響を受けたことは幸運だった。
人間と自然をたたえるものでなければ、
新しい歌は生まれてくる必要がない、
といつしかぼくは考えるようになっていた。
たとえ悲しいことがあっても、
地上に生まれたことは素晴らしい。
筒美京平の作品には、
世界を肯定するエネルギーが満ちあふれている。
photo=夕暮れの湘南海岸(c.nagase)