雨天決行
車のフロントガラスに雨が落ちてきた。
ポツリ、ポツリ。
水滴の間隔はせまくない。
どうか本降りになりませんように。
U画伯の不機嫌な顔が目に浮かんだ。
江川のあたりは道が入り組んでいるから、
よほど慣れた者でなければ最短距離を走るのは難しい。
ぎくしゃく折れ曲がりながら、
何とか漁港の前に出た。
よし。
あとは『シータイガー』まで一直線。
U画伯、もうちょっとです!
前方に目を凝らしていると、
歩道に男の影が見えた。
傘を差し、
ゆらゆらと漂うように歩いてくる。
U画伯だった。
「停めて。あのおじさんを乗せるから。」
女の子は歩道に車を寄せた。
深呼吸をひとつ。
車を降りたぼくは、
つとめて陽気に振る舞った。
「いやーUさん。こんな雨ん中、何やってるんすか?」
U画伯がぼくの目をのぞきこんだ。
「いったいどうゆうことやねん?
いきなり電話かけてきて。わけのわからんとこへ連れ出して。」
「すいません。」
ぼくはひたすら謝った。
「何ですかね。つい名前をまちがえまして。
子安神社やなくて、恵比須神社やったんです。」
「そやろ!」
車に押し込まれながらU画伯が目を剥いた。
「タクシーの運ちゃん、首かしげとったで。
子安神社ゆうたら、ここだけですけどって。」
「そうですそうです。まちがいでした。」
「ちゃんとしてくれよ。」
U画伯が悲しい声を出した。
「俺を誰やと思てんねん。」
空気を変える必要があった。
このまま二人きりになるのはきびしい。
そうだ!
S住職を迎えに行こう。
「高山寺にやってくれる?」
走り出した車の助手席で、
ぼくは住職に電話をかけた。
「もしもし?Sさん?エビノキです。
ちょっと早いんですけど、これからそちらへ回っていいですか?
いえ。Uさんも一緒です。
よろしいですか?
はい。では後ほど。失礼します。」(つづく)
photo=漁港の防波堤(c.nagase)
どうして 登場人物の中に U画伯が いらっしゃると こんなにも ワクワク ドキドキ するんでしょうか? この先が 楽しみで楽しみで! ワクワク!
引火性の高い性格をしていらっしゃるので、
そばにいるとハラハラします。
ですが意外な一面もお持ちのようで、
先週末台風が通り過ぎた日、
「おい!虹が出てるぞ」
と突然電話がありました。
外に出てみると見事な光のスペクトル。
雲を見ながら画想を練っていたのでしょうね、きっと。