アヤソフィア大聖堂2
ケマル・パシャとか、
ムスタファ・アタチュルクとか、
トルコの近代史をひもとくと必ず出てくる名前があります。
このふたりが同一人物だったことを、
今回はじめて知りました。
「ムスタファ・ケマル・アタチュルク」
トルコ革命の指導者であり、
トルコ共和国の初代大統領。
要するにオスマン帝国をひっくり返して近代トルコを作り上げた建国の父です。
いくつも名前があるのは、
社会的地位が上がるたびに新しい称号が与えられたから。
木下籐吉郎と豊臣秀吉みたいなものですね。
このアタチュルクの手によって、
アヤソフィアは博物館として国民に解放されました。
おそろしく豪華な博物館です。
ぼくたちが訪れた日、
2階の広間で写真展の準備が進んでいました。
白黒写真のパネルがイーゼルに並べられて、
だんだん会場が出来上がっていく。
通行人のいる前で設営をするのが面白く、
しばらくなりゆきを見ていました。
客の前で着替えをする舞台のようです。
回廊を歩き回っていると、
テーブルに花が飾られて、
ブッフェスタイルのパーティーがはじまる気配。
写真展と同じく、
通行人など存在しないかのよう。
グラスを並べたり、
音響機器のをチェックしたり、
若いギャルソンが忙しそうです。
アヤソフィアの内部は吹き抜けになっており、
武道館にたとえると、
アリーナを見下ろす2階席に広い回廊が設けられ、
そのあちこちに展示スペースがある感じ。
2階と簡単に書いたけれど、
その高さは途方もないもので、
アリーナを見下ろすと足がすくみます。
巨大な手すりにそって桟敷席が設けられ、
それは戴冠式を観覧する王妃のためのものでした。
ローマ皇帝の座が、
この場所で継承されたのかと思うと、
思わず背中がぞくぞくしました。
歴史の余熱が、
今もなお大理石の床から立ち上るようです。
かつてこの場所は世界の中心でした。
光と闇を対比させ、
迷いを救いで満たす場所でした。
皇帝が去り、
カリフが去り、
ぼくが見たアヤソフィアは奇妙に明るい空間でした。
それは再生装置のないレコード盤のような場所でした。
かつてここを満たした聖なる歌は、
石の表面に刻印されたまま、
借り手のないレコードのように、
歴史の戸棚に置き忘れられていくのでしょうか。
観光客は建物の内部をゆっくり回遊していました。
ゆっくり歩けば、
かすかな歌が聞こえるのかも。
蓄音機の針は、
レコードの溝をなぞるだけで音楽を発生させるものです。
ああそうか。
再生装置などいらないのです。
photo=蛯乃木ユウイチ